2016年9月25日 (日)

ハリー・オーガスト、15回目の人生

【2016年9月25日】
ハリー・オーガストは1919年に英国の田舎に生まれ、大戦前後の混乱期を生きて、21世紀を迎える前には死ぬ、おおよそは。しかし、オーガストの生涯は1度だけではないのだ。記憶を保持したまま何度も同じ生涯を生き直し、記憶を利用することで人生を変えることができた。だがある日、彼は自分が生きる未来が滅亡の危機に曝されていることを知る……
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英国でベストセラーとなったタイムループものの長編です。キャンベル記念賞受賞作品。過去の記憶を保持したまま、15回も同じ人生を生きたら飽きてしまいそうです。しかも歴史を大きく変えるのはご法度。歴史が変わると記憶が役に立たなくなりますからね。しかし、本書では安定した時間の流れを破壊する敵が登場します。それは、世界の破滅に結びつくかもしれない。本書はそういう歴史改変サスペンスでもあるわけです。

2016年9月18日 (日)

スペース金融道

【2016年9月18日】
主にオリジナル・アンソロジイ《NOVA》に掲載された連作短編に加えて、新たに1作を書き下ろした宇宙の高利貸しを描く最新作品集である。『ナニワ金融道』のようなお話かというと、基本はそうなのだが、ちょっとニュアンスは異なる。マンガのどろどろした人間関係の代わりに、本書では、SFの設定や現代的小道具(人工生命、ナノマシン、アンドロイド)が描かれているのだ……
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宮内悠介の単行本としては今年3冊目になります。疑似科学、音楽ときて本書はサラ金がテーマ。もともとSFアンソロジイに載った作品だったせいもあり、3冊の中では最もSFといって良い内容です。原題(?)は『銀河サラ金屋の冒険』ですね。誰にでも貸す代わりに、必ず取り立てをする貸金業の定石も踏まえています。まあ、相手が人間ではないので、その取り立ては過酷を究めるわけですが。

2016年9月11日 (日)

ケレスの龍

【2016年9月11日】
北と南に分かれ戦われた素粒子戦争後の世界。世界は異様な生き物と、盗賊が跋扈する無法地帯に近い。元兵士だった主人公たちは、誘拐事件をきっかけに、逃走するアンドロイドの犯人たちを追って、宇宙空間へと足を延ばす。目的地は小惑星ケレスだ……
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椎名誠2年ぶりの超常小説です。お馴染みの荒涼とした戦争後の世界が舞台。盗賊まがいの賞金稼ぎたちが、アンドロイドの犯罪者を追って宇宙まで飛びます。SF的小道具も多数登場。ただし、そこは椎名流の風味が強く、科学的というより幻想的な雰囲気が色濃い。ケレスも今どきで言えば准惑星なのですが、ここでは昔流の呼称小惑星がふさわしいでしょうね。

2016年9月 4日 (日)

刑罰0号

【2016年9月4日】
近未来の日本、犯罪を裁く極刑は死刑だが、それでは受刑者に被害者の苦しみを伝えることができない。そこで、被害者の記憶を抽出し受刑者に再体験させる実験「0号」が行われる。しかし、人体実験は失敗し、被験者の精神を破壊するだけで終わってしまう。生き残った0号は、別の人生を歩み出すが……
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日本ファンタジーノベル大賞作家というより、吉川英治文学新人賞作家によるSF連作短編集です。8年前にSF Japanに載った短編を膨らませたもの。犯罪被害者の記憶を人工的に蘇らせるというアイデアは、これまでさまざまに使われてきました。それを犯罪捜査に使うミステリなら、TVドラマでもありましたよね。本書は刑罰として受刑者に記憶が移植されますが、被験者は人格に変容をきたしてしまいます。

2016年8月28日 (日)

エターナル・フレイム

【2016年8月28日】
母星から直交方向に飛ぶ巨大な宇宙船〈孤絶〉内部では、すでに数世代の時が流れている。故郷を救う方法は未だ得られず、帰還に要するエネルギーも不足する。しかし、接近する直交星群の1つ〈物体〉を探査した結果、意外な事実が判明する。一方、乏しい食料と人口抑制の切り札として、彼らの生理作用を変える実験も続けられていた……
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昨年末に出た『クロックワーク・ロケット』に続く《直交三部作》の第2部です。エターナル・フレイム=「永遠の炎」の発見に至るまでの物語ですが、その間、量子力学のノーベル賞級発見が相次ぎます。何しろ物理法則の異なる宇宙での量子力学を、その数式から類推して作るのですからすさまじい。本書にはもう一つ、イーガン流の人間的(主人公は人間ではありませんが、人のようにふるまいます)問いかけがあってお話の柱になっています。

2016年8月21日 (日)

青い海の宇宙港 春夏篇/秋冬篇

【2016年8月21日】
南国の多根島には、ロケット打ち上げのできる宇宙港がある。島ではその特性を生かし、宇宙遊学生を受け入れてきた。主人公はそんな一人、町の小学校で6年生として1年間を過ごすのだ。自然豊かな島での生活、全国から集まった個性豊かな仲間、受け入れてくれる里親や、宇宙港の職員たちと交わりながら、彼らはついに手作りロケットを打ち上げるまで成長していく……
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川端裕人のロケット打ち上げ小説です。1998年に著者が『夏のロケット』を書いた当時は、まだ民間でロケットを打ち上げる機運はなかったわけですが、今ではNASAの肩代わりをするのも当たり前。日本でも民間やアマチュア中心でロケット開発が進んでいます。それなら、いっそのこと小学生がロケットを上げられるのか、という夢の実現が本書のミソです。夢で終わらない、リアリティが込められているのが楽しい。

2016年8月14日 (日)

死の鳥

【2016年8月14日】
本書は11篇を収めた日本オリジナルの短篇集である。先の『世界の中心で愛を叫んだけもの』(この表題は、さまざまに流用されて有名になった)以降の邦訳で、全ての作品がヒューゴー賞やネビュラ賞、もしくはエドガー賞などに関係するのが特徴だ。なぜかというと、過去のSFマガジン/ミステリマガジン受賞特集用に翻訳されたものを集めたからである。結果的にベスト版になっている……
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日本では名のみ高く、翻訳がとても少なかった伝説の作家、ハーラン・エリスンの短篇集です。発売忽ち重版らしく、名声いまだ衰えずなのでしょう。収録されたのは、1934年生まれの著者が30-40代頃の作品が中心で、一番SFで元気だった時期のもの。脅されても黙っちゃいないという気迫が感じられます。もちろん21世紀以降も執筆を続けており、受賞もしていますが、中心はホラー系に移っています。2006年にはネビュラ賞で授与されるSFWAのグランドマスター賞を受賞、殿堂作家ですね。

2016年8月 7日 (日)

ウルトラマンF

【2016年8月7日】
《初代ウルトラマン》終了直後の時代、ウルトラマンは地球を去ったが、怪獣の脅威は収まることがなかった。科学特捜隊は、ウルトラマンの技術を応用したアーマーで対抗する。某国では人間の巨大化開発を進め、別の某国でも密かに兵器化を模索していた。しかし、強力な怪獣を倒すためには、不完全な兵器では力不足だ。かつて、メフィラス星人により巨大化した実績のある富士隊員の力が必要だった……
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ウルトラマンマニアの小林泰三によるウルトラマン、Fはフジ隊員のFです。子供時代、フジ・アキコ隊員が巨大化する姿(初代ウルトラマン第33話)に強烈な印象を受けた著者が、科学的裏付けを新たに付して書き上げた壮大な2次創作といえるものです。ウルトラマンは放送開始50年(1966年)、放送を見た人=ウルトラ世代とすると広がりすぎですが、当時4歳だった著者からせいぜい18歳までを深層影響世代とすると、現在68歳以下(日本人口の77%)はほぼ新旧ウルトラマン世代の範囲と言えます。まあ、全員が見ていたわけではありませんが、最高視聴率が40%を越えたこともある国民的怪獣番組でした。

2016年7月31日 (日)

松本城、起つ / 竜と流木

【2016年7月31日】
『松本城、起つ』信州大学生の主人公は、家庭教師をしている女子高生とともに、地元なのによく知らなかった松本城を訪れる。その天守閣で大きな地震に遭遇、17世紀の江戸時代にタイムスリップする。折りしも城下は天候不順に見舞われ、年貢の減免を求める農民たちの間に不穏な空気が流れていた。なぜこの時代に来たのか、自分たちにどんな使命が期待されているのだろう……

『竜と流木』主人公は太平洋の小島に生息する、小さな両生類のアマチュア研究者。アメリカ人とのハーフで、語学学校の講師をする傍ら、休みの度に島を訪れる。両生類はまるでカワウソのような外観で愛くるしい。ところが生息地の開発から、その生き物をリゾートの池に移したことをきっかけに、奇妙な事件が起こるようになる。観光客や島の住民が、未知のトカゲに襲われるようになったのだ……
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『松本城、起つ』は、ハヤカワSFコンテスト受賞作家で、これまで宇宙ものを書いてきた六冬和生による、ご当地(松本市在住)新作長編です。大学生と女子高生が江戸時代に迷い込み、一揆騒動に巻き込まれるタイムスリップもの。史実や伝承をベースとした時代小説のため、お話自体はこれまでとずいぶん印象が変わりますが、今どきの大学生が物語の語り手なので既存作品と共通する部分もあります。

『竜と流木』は篠田節子の長編。5月に出て生態的なメカニズムが良くできているので、SF界隈でも評判になりました。生物は進化によって変化するのですが、何万年もの時間が必要です。しかし変化の要因はそれだけではありません。そういった総体的、重層的な生物環境への見方が加わっているのがポイントでしょう。

2016年7月24日 (日)

ビビビ・ビ・バップ

【2016年7月24日】
21世紀末、音響設計士兼ジャズ・ピアニストの通称フォギーは、兵器・ロボット産業の大立者から仮想空間に造る墓所の依頼を受ける。大立者は130歳を経て死が近い。仮想大正池や20世紀新宿でフォギーのピアノ演奏を流し、葬儀参列者をもてなしてから死を迎えたいというのだ。それだけではない。エリック・ドルフィーをはじめとするジャズの名演奏家たち、将棋の大山康晴名人や、落語の古今亭志ん生、立川談志までもアンドロイドで再現されているのだ。一体その目的は何なのか……
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奥泉光の大作長編です。SFファンから高く支持された『鳥類学者のファンタジア』の15年ぶりの続編ですが、前作を読んでいなくとも楽しめると思います。ジャズや落語から将棋(ジャズシンガー、棋士、落語家、はては山田風太郎忍法小説のアンドロイドなど多数登場)まで、AIがらみのさまざまな話題が含まれていています。理に勝つイーガンにエンタメで挑戦、という趣向もあって面白い。

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