2016年8月21日 (日)

青い海の宇宙港 春夏篇/秋冬篇

【2016年8月21日】
南国の多根島には、ロケット打ち上げのできる宇宙港がある。島ではその特性を生かし、宇宙遊学生を受け入れてきた。主人公はそんな一人、町の小学校で6年生として1年間を過ごすのだ。自然豊かな島での生活、全国から集まった個性豊かな仲間、受け入れてくれる里親や、宇宙港の職員たちと交わりながら、彼らはついに手作りロケットを打ち上げるまで成長していく……
もっと詳しく

川端裕人のロケット打ち上げ小説です。1998年に著者が『夏のロケット』を書いた当時は、まだ民間でロケットを打ち上げる機運はなかったわけですが、今ではNASAの肩代わりをするのも当たり前。日本でも民間やアマチュア中心でロケット開発が進んでいます。それなら、いっそのこと小学生がロケットを上げられるのか、という夢の実現が本書のミソです。夢で終わらない、リアリティが込められているのが楽しい。

2016年8月14日 (日)

死の鳥

【2016年8月14日】
本書は11篇を収めた日本オリジナルの短篇集である。先の『世界の中心で愛を叫んだけもの』(この表題は、さまざまに流用されて有名になった)以降の邦訳で、全ての作品がヒューゴー賞やネビュラ賞、もしくはエドガー賞などに関係するのが特徴だ。なぜかというと、過去のSFマガジン/ミステリマガジン受賞特集用に翻訳されたものを集めたからである。結果的にベスト版になっている……
もっと詳しく

日本では名のみ高く、翻訳がとても少なかった伝説の作家、ハーラン・エリスンの短篇集です。発売忽ち重版らしく、名声いまだ衰えずなのでしょう。収録されたのは、1934年生まれの著者が30-40代頃の作品が中心で、一番SFで元気だった時期のもの。脅されても黙っちゃいないという気迫が感じられます。もちろん21世紀以降も執筆を続けており、受賞もしていますが、中心はホラー系に移っています。2006年にはネビュラ賞で授与されるSFWAのグランドマスター賞を受賞、殿堂作家ですね。

2016年8月 7日 (日)

ウルトラマンF

【2016年8月7日】
《初代ウルトラマン》終了直後の時代、ウルトラマンは地球を去ったが、怪獣の脅威は収まることがなかった。科学特捜隊は、ウルトラマンの技術を応用したアーマーで対抗する。某国では人間の巨大化開発を進め、別の某国でも密かに兵器化を模索していた。しかし、強力な怪獣を倒すためには、不完全な兵器では力不足だ。かつて、メフィラス星人により巨大化した実績のある富士隊員の力が必要だった……
もっと詳しく

ウルトラマンマニアの小林泰三によるウルトラマン、Fはフジ隊員のFです。子供時代、フジ・アキコ隊員が巨大化する姿(初代ウルトラマン第33話)に強烈な印象を受けた著者が、科学的裏付けを新たに付して書き上げた壮大な2次創作といえるものです。ウルトラマンは放送開始50年(1966年)、放送を見た人=ウルトラ世代とすると広がりすぎですが、当時4歳だった著者からせいぜい18歳までを深層影響世代とすると、現在68歳以下(日本人口の77%)はほぼ新旧ウルトラマン世代の範囲と言えます。まあ、全員が見ていたわけではありませんが、最高視聴率が40%を越えたこともある国民的怪獣番組でした。

2016年7月31日 (日)

松本城、起つ / 竜と流木

【2016年7月31日】
『松本城、起つ』信州大学生の主人公は、家庭教師をしている女子高生とともに、地元なのによく知らなかった松本城を訪れる。その天守閣で大きな地震に遭遇、17世紀の江戸時代にタイムスリップする。折りしも城下は天候不順に見舞われ、年貢の減免を求める農民たちの間に不穏な空気が流れていた。なぜこの時代に来たのか、自分たちにどんな使命が期待されているのだろう……

『竜と流木』主人公は太平洋の小島に生息する、小さな両生類のアマチュア研究者。アメリカ人とのハーフで、語学学校の講師をする傍ら、休みの度に島を訪れる。両生類はまるでカワウソのような外観で愛くるしい。ところが生息地の開発から、その生き物をリゾートの池に移したことをきっかけに、奇妙な事件が起こるようになる。観光客や島の住民が、未知のトカゲに襲われるようになったのだ……
もっと詳しく

『松本城、起つ』は、ハヤカワSFコンテスト受賞作家で、これまで宇宙ものを書いてきた六冬和生による、ご当地(松本市在住)新作長編です。大学生と女子高生が江戸時代に迷い込み、一揆騒動に巻き込まれるタイムスリップもの。史実や伝承をベースとした時代小説のため、お話自体はこれまでとずいぶん印象が変わりますが、今どきの大学生が物語の語り手なので既存作品と共通する部分もあります。

『竜と流木』は篠田節子の長編。5月に出て生態的なメカニズムが良くできているので、SF界隈でも評判になりました。生物は進化によって変化するのですが、何万年もの時間が必要です。しかし変化の要因はそれだけではありません。そういった総体的、重層的な生物環境への見方が加わっているのがポイントでしょう。

2016年7月24日 (日)

ビビビ・ビ・バップ

【2016年7月24日】
21世紀末、音響設計士兼ジャズ・ピアニストの通称フォギーは、兵器・ロボット産業の大立者から仮想空間に造る墓所の依頼を受ける。大立者は130歳を経て死が近い。仮想大正池や20世紀新宿でフォギーのピアノ演奏を流し、葬儀参列者をもてなしてから死を迎えたいというのだ。それだけではない。エリック・ドルフィーをはじめとするジャズの名演奏家たち、将棋の大山康晴名人や、落語の古今亭志ん生、立川談志までもアンドロイドで再現されているのだ。一体その目的は何なのか……
もっと詳しく

奥泉光の大作長編です。SFファンから高く支持された『鳥類学者のファンタジア』の15年ぶりの続編ですが、前作を読んでいなくとも楽しめると思います。ジャズや落語から将棋(ジャズシンガー、棋士、落語家、はては山田風太郎忍法小説のアンドロイドなど多数登場)まで、AIがらみのさまざまな話題が含まれていています。理に勝つイーガンにエンタメで挑戦、という趣向もあって面白い。

2016年7月17日 (日)

宇宙探偵マグナス・リドルフ

【2016年7月17日】
ジャック・ヴァンスの日本オリジナル傑作選《ジャック・ヴァンス・トレジャリー》全3巻の最初の1冊である。主人公は、宇宙探偵というか宇宙のトラブルシュータ―、論理的で冷静ながら、金にこだわる俗人で、倫理観には一切囚われない。善人を騙すことはないが、それは悪人の方が金を持っているからなのだ。外観は中肉中背白髪白鬚、原著では50代、今の感覚なら70代くらいの老紳士である……
もっと詳しく

なぜ日本で出るのか良く分からない《ジャック・ヴァンス・トレジャリー》です。何しろ、人生で必要なものはヴァンスに習った、とか言う日本人はたぶんいません。ロングセラー、ベストセラーもない。ただし、原書を読んでいた人、翻訳SFファンには根強い人気がありました。もともとチープなスペースオペラ作家だったヴァンスは、高価なハードカバーが似合う作家ではありません。しかし、97歳まで生きたレジェンドのような生涯もあって、今ではヴィンテージの味わいを感じさせます。

2016年7月10日 (日)

アステロイド・ツリーの彼方へ

【2016年7月10日】
創元版日本SF傑作選の第9弾、2015年を対象としたもの。いつものように全19編(コミック2編を含む)+創元SF短編賞受賞作1編と収録作は多い。600頁で20編もあるため、数頁の短いものもあれば中篇級のものもある。短いものでは、飛浩隆、円城塔、酉島伝法などの抽象性が高い作品や、藤井太洋のアイデアが効いた作品が印象深い。北野勇作のTwitter小説は、まとめて縦書きで読むとまた雰囲気が変わってくる。遠野浩平や坂永雄一は、古いテーマに対する目新しいアプローチといえる。第7回創元SF短編賞の石川宗生は、一般誌でも問題のない読みやすい奇想小説ながら、SF特有のロジカルさを併せ持つ……
もっと詳しく

9年(分)目となった創元版年刊日本SF傑作選です。最近数年は600頁20編前後を収録するボリュームとなって、読みごたえは十分あります。今年の星雲賞はSFマガジンに載った円谷プロ提携作品(山本弘「多々良島ふたたび」田中啓文「怪獣ルクスビグラの足型を取った男」)が受賞しましたが、収録された単行本『多々良島ふたたび』が出たばかりでもあり、本書にそれらは含まれていません。結果的にSFマガジンからは1編のみ、その他は小説宝石の別冊で単行本扱いのSF宝石2015、各誌の特集企画や、同人誌、Webなどが目立ちます。今回創元SF短編賞を受賞した石川宗生「吉田同名」のような奇想小説なら、専門誌でなくても読めるようになったといえますね。

2016年7月 3日 (日)

失われた過去と未来の犯罪

【2016年7月3日】
物語の冒頭で世界的な異変が起こる。短期記憶を長期記憶に受け渡す脳の機能が失われ、人は10分程度のわずかなサイクルで記憶を失うようになる。第1章では、混乱する社会やメルトダウンの危機に陥る原発の現場が描かれる。第2章では、外部記憶を設けることで、危機を脱した世界に舞台は移る。そこでは外部メモリが人生そのものの記録となる。だとすると、メモリがその人になるのか。メモリの複成は人格のコピーなのか……
もっと詳しく

小林泰三の5月末に出た長編です。最新作『クララ殺し』も出たばかり、引き続き『ウルトラマンF』も控えているという絶好調の著者ですが、本書はミステリのようでSFという(いつもの)小林泰三スタイルで書かれています。人類全体が10分間しか記憶を保てないとしたら、過去の記憶がすべてUSBメモリのようなものに集約されてしまったら、という設定の上にさまざまな日常的事件が描かれています。ミステリというか思考実験のようなお話です。

2016年6月26日 (日)

蒲公英王朝記 巻之二 囚われの王狼

【2016年6月26日】
クニとマタ、2人の英雄は独自の戦法でザナ帝国の首都を目指し戦う。クニは最小限の努力で首都を征服するが、正面からの死闘を経てきたマタには、それが我慢ならない。やがて軍事力に勝るマタの統治が始まり、不和の種が帝国全土に蒔かれていく……
もっと詳しく

ケン・リュウ版『項羽と劉邦』完結編。これは三部作の第一部に相当するのですが、いったん物語は終わります。際立っているのは女性の活躍で、項羽と劉邦に相当するマタとクニを除けば、女性ばかりに印象が残ります。主に日本で人気がある(史実がほとんど残っていないため、もっぱら空想のみの人気)、虞美人も登場します。

2016年6月19日 (日)

カメリ

【2016年6月19日】
カフェに勤める模造亀カメリは、同僚のヌートリア擬人体アン、シリコン頭脳のマスターとともに、お客であるヒトデナシに泥コーヒーと泥饅頭を提供している。ヒトはケーブルTVの中にしかおらず、どこもがぬかるんだ泥だらけの世界になっている。そこをヒトデナシたちが修復している。彼らは元の世界を再現しようとするのだが、出来あがったものは、似ているようでいて全く違うものなのだ……
もっと詳しく

北野勇作が10年書き続けた、模造亀カメリが主人公の短篇がまとまりました。泥濘に埋もれたもう一つのパリが舞台で、そこに大阪キタやさまざまな都市のイメージが重なり合います。駄ジャレのようなお伽噺のような、ホラーのようなSFのような、まさに他に比べるもののないユニークな想像が溢れる作品になっています。ところで、舞台の中之島からもうちょっと西に行った此花区に入ると、今度は酉島伝法の世界になるのです。

フォトアルバム

現在の時刻(JST)