2012年5月20日 (日)

連環宇宙

【2012年5月20日】
 人類を40億年も封じ込めた超越的存在“仮定体”。そこに吸収された1人の男が、1万年を経て復活する。仮定体が造ったゲートによって結ばれる〈連環世界〉では、人類は2つの陣営に分かれ争っている。男は浮遊群島から成る都市国家に救出される。彼らはある種の狂信者で、居住者が死に絶えた地球で仮定体との合一を夢見ていた…
もっと詳しく

 ウィルスンの人気3部作完結編です。本書の中で登場する浮遊移動都市の名前がVOX(「移動」という意味)で、原題はVORTEX(渦巻)となっています。時間と空間の「大渦」に巻き込まれる主人公たちを象徴する言葉なのでしょう。コアなSF側から見るとちょっと物足りない出来ですが、SFが苦手な人にはむしろ向いている3部作です。第1部『時間封鎖』を、故児玉清が、これならミステリ好きでも読めると推奨していました。

2012年5月13日 (日)

ボーンシェイカー ぜんまい仕掛けの都市

【2012年5月13日】
 1863年、シアトルの発明家が開発した途方もない坑道切削マシン「ボーンシェイカー」が暴走、町の中心部を崩落させ、有毒ガスが噴出するという大事故を引き起こした。そのガスには死者をゾンビ化する効果があり、町の大半は危険地帯と化した。やがて高い壁が築かれ、中心部は隔離される。16年後、一人の少年がそこに潜入しようとする。彼は発明家の息子であり、父親の痕跡を探そうとしていたが…
もっと詳しく

 女性スチームパンク作家シェリー・プリーストの、人気シリーズ《ぜんまい仕掛けの世紀》第1作目です。南北戦争が続く、もう一つの19世紀アメリカ、ゾンビ都市と化した西部のシアトルが舞台です。スチームパンクと言えば、たいていヨーロッパなのですが、本書はアメリカのしかもシアトルというところが珍しい設定でしょう(19世紀段階では、州に昇格する前の辺境の田舎町)。中身はまったく違いますが、映画「ワイルド・ワイルド・ウェスト」をちょっとイメージします。

2012年5月 6日 (日)

マイクロワールド(上下)

【2012年5月6日】
 ケンブリッジにある生物学の大学院に、ハワイのベンチャー企業からリクルートの誘いが来る。画期的な技術で、生物由来の医薬品研究を行うという。企業ではマイクロロボット技術の開発も進んでおり、その技術を使うと、人間のような大型動物もマイクロ化が可能なのだ。しかし、企業の内部抗争に巻き込まれた大学院生たちは、わずか2センチに縮められ、昆虫の宝庫であるハワイの自然植物園に投棄される。そこは、凶悪な捕食者が跋扈する未知の暗黒大陸そのものだった…
もっと詳しく

 マイクル・クライトンの、(たぶん)本当の最後の一冊。先に出た『パイレーツ』は完成していた遺作ですが、本書は未完成の遺作です。それをプレストンが完成させたもの。昆虫サイズの世界が、人間の見ている“自然”とは全く異なるものだというのは、詳しい人から見れば明白なことなのでしょう。本書では人間が縮小されたことで、よりビジュアルに分かります。その昔のディズニー・ドキュメンタリー映画「大自然の闘争/驚異の昆虫世界」(1971)を思い出します。

2012年4月29日 (日)

サイバラバード・デイズ

【2012年4月29日】
 イギリス作家イアン・マクドナルドのオムニバス中編集である。アイルランド出身の母と、スコットランド出身の父を持ち、北アイルランドの映像プロダクションで働くという生活をしている。最近は非英米圏を舞台とした作品を手掛けるようになった。本書はその中でも、21世紀半ばのインドが舞台だ。表題はCyberと、都市を意味するabadからなる造語。インドでは“r”は発音されるから、サイバーバードではなくサイバラバードなのである…
もっと詳しく

 英国作家のインドもの。21世紀中盤のインドは、分裂しながらもサイバー度を増し、高度なAIが人と対等に活動するようになっています。マクドナルドは、その社会を重厚な文章で描写しています。とはいえ、本書のインドは、ちょっと類型的かもしれません。インドは、日本人から見ても西欧人から見ても、恐らく世界で一番ユニークかつ成熟した文明だと思います。その分異質かもしれませんが。

2012年4月22日 (日)

居心地の悪い部屋

【2012年4月22日】
 岸本佐知子が「野性時代」に、2008年から11年にかけて翻訳した12編を収録。単行本が出ているジュディ・バドニッツや、ルイス・キャロル・オーツ、アンナ・カヴァン以外では、短編が既訳とは言っても、コアな翻訳小説ファンでもなければ、馴染みがある名前は少ないだろう。原著の発表時期は1990年から2000年代が主だが、カヴァンのように40年代の作品も含まれる。お話に解決はなく、結論もないけれど、ただもやもやとした、不安定なあと味を残す短編が収められている…
もっと詳しく

 居心地が悪い、何とも落ち着かず不安に駆られる、嫌な予感がする、何となくいや…という短編群です。そんな嫌なものは読みたくないと思うところなのですが、逆に面白かったりします。嫌いなものが実は好きなものでもある、人間心理の不可思議さでしょうか。

2012年4月15日 (日)

盤上の夜

【2012年4月15日】
 第1回創元SF短編賞で山田正紀賞を受賞した宮内悠介の、受賞作を含む第1短編集である。第1回で短編賞を受賞した松崎有理と同じく、本書も同社の《創元日本SF叢書》に収められている。著者は1979年生まれ、麻雀のプロを目指していたこともあるという…
もっと詳しく

 囲碁、チェッカー、麻雀、チャトランガ(古代インド発祥、将棋/チェスの原型)、将棋、最後も囲碁、という6つのゲームをテーマにした短編集です。麻雀だけがちょっと異色ですが、著者がプロ雀士を目指していた関係で入っているのでしょう。それぞれのゲームに対する薀蓄と、SF的設定がないまぜになって、ちょっと他では得られない味になっています。SFでなくても、と思える部分もあるものの、そこがあるからこそのユニークさですから。

2012年4月 8日 (日)

ゆみに町ガイドブック

【2012年4月8日】
 昨年11月に出た西崎憲の長編小説である。2002年に第14回日本ファンタジーノベル大賞を受賞してから(下記参照)、8年ぶりに『蕃東国年代記』(2010)を出版、その間翻訳の著作は多数出しているが、創作としては本書がようやく受賞後第2作目となる。3つの視点から物語が進むという内容なので、6つのエピソードが並列に置かれた受賞作に似た構成だ…
もっと詳しく

 こんな題名が付いていますが、微温的なファンタジイではなく、ダークファンタジイになるでしょう。昨年11月の本ながら、おっさんSFファンたちが褒めているので読んでみました。ゆったりとした地方都市に住む主人公と、その裏側に存在するディズニーランドならぬディスティニーランド、そこでクリストファー・ロビン(ミルンのプーさんではおなじみでしょう)を探すダークな「くまのプーさん」のお話です。

2012年4月 1日 (日)

原色の想像力2

【2012年4月1日】
 創元SF短編賞の応募作を収録した、オリジナル・アンソロジーの第2弾。賞は今年で3回目を迎えるが、毎回600編前後の作品が殺到する高人気の公募小説賞である。この創元SF短編賞には賞金がない。受賞作が同社から毎年出る《年刊日本SF傑作選》に収録される、という以上の特典はない(傑作選のための企画であると、はっきり書いてある)。今の時点で、他にSFを謳う賞がないのも事実だが、インセンティブが名誉のみの賞とは思えない盛り上がりだ…
もっと詳しく

 SF界では異例の新人賞アンソロジーの第2弾(ミステリでは前例あり)。掲載作の半分はプロかセミプロの作品。なぜ既にプロの作家が、賞金も出ないSF新人賞に応募するのか、と謎の推理を楽しむこともできます。既に成熟したSFという分野だから、集まる作品のレベルも必然的に高くならざるを得ない、という側面もありますが。前巻同様読みごたえは十分でしょう。

2012年3月25日 (日)

PK

【2012年3月25日】
 伊坂幸太郎の最新連作短編集。ここでPKとは、念動能力を意味する Psycho Kinesis とも、サッカーの Penalty Kick とも取れるようになっている。文芸誌「群像」や、アンソロジイ『NOVA5』に発表した中編3作からなる。大半は、震災前に書き上げていたという(著者は仙台在住で、震災前後の生活を綴った『仙台ぐらし』が話題になった)。もともとSF的な設定のミステリは多かったのだが、この作品は明確に“時間SF”と言って問題ないだろう…
もっと詳しく

 主にミステリを書く伊坂幸太郎のSF作品集です。「時間SF」は科学というより、タイムパラドクスに代表されるパズルや、矛盾を面白がる小説なので、ミステリ的アイデアでも十分書けるサブジャンルですね。それにしても、こんな未来の変え方は、ちょっと普通では考え付きません、ってそんなことで時間を騙せるのか。

2012年3月18日 (日)

いま集合的無意識を、

【2012年3月18日】
 まず、表題作が特異な書かれ方をしている。既に死者である仮想の作家と、フィクション内の登場人物である作者とが議論を交わすという作品なのだ。仮想の作家は想像力の停止を物語の中で語り、一方現実に生きる作家は、リアルに対抗できる唯一の手段こそフィクション/想像力であると反論する。ここで、死者=伊藤計劃、作家とは自身=神林長平なのである。著者にしては珍しく、ダイレクトな意見表明となっている…
もっと詳しく

 もともと多作ではありませんが、昨今新作の発表が少なくなった、神林長平の最新短編集です。収録作品から言っても最新でしょう。著者の場合、大衆的人気というより、コアなファンが多いのが特徴。一見ディックを思わせる現実崩壊を描きながら、独特の読後感は「神林的世界観」と表現する他ありません。本書では、そんな神林世界が存分に味わえます。

フォトアルバム

現在の時刻(JST)

2012年5月

    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31