2016年12月 4日 (日)

ヒュレーの海、世界の終わりの壁際で、最後にして最初のアイドル

【2016年12月4日】
『ヒュレーの海』未来のいつか。文明は混沌に呑み込まれ崩壊、情報的記録の海が地球を覆う。人類はシリンダ型の塔のような都市に住み、都市は7つの序列を持ち、さらに資本家と労働階級に分かれる。人類はある種の情報生物となって世界に適応している。そんな中、過去の記録にある本物の海を見ようと、下層民の少年少女は旅立つが。
『世界の終わりの壁際で』未来の東京は山手線の内側に壁を築き、その外部との出入りを遮断している。内側にある〈シティ〉は、大規模な環境変動から逃れるための箱舟なのだ。外側で育った主人公は電脳ゲームの名手だったが、ある日アルビノの少女や奇妙な人工知能と出会ったことで、内側世界の秘密を知ることになる。
『最後にして最初のアイドル』アイドルオタクになった少女が、都会でアイドルになろうともがくが挫折。その一方、地球全体を襲った太陽フレアの猛威により、文明どころか生物相までが激変する。しかしアイドルになるという妄執に囚われた少女は、その意識だけを保ちながら残された生物の進化に干渉する……
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第4回ハヤカワSFコンテストの優秀賞2作と、特別賞作品です。特別賞の『最後にして最初のアイドル』は中篇のため、電子書籍でしか出ていません。前2者はなろう系作家(〈小説家になろう〉サイトで書く89万人の作家のこと)で、サイトで既発表作を改稿したもの。未公開原則に反するのではないかとの指摘もあったようですが、無償公開なので編集部的には不問との判断です(作品講評にあり)。中では『最後にして最初のアイドル』が話題沸騰、小説じゃないあらすじだという批判は、元ネタのステープルドンがそうなのだから仕方ありません。ステープルドンは通読困難なので、読みやすいオラフ系といえるのかも。

2016年11月27日 (日)

代体

【2016年11月27日】
「代体」とは人間の脳活動そのものをヒューマノイド型アンドロイドに移し、人体の代わりとする技術である。その性格上、重病や怪我などの治療時に使用する以外は、法的に厳しく制限されていた。あるとき、代体利用者の殺人事件が発生、調査を開始した内務省特殊案件処理チームは、背後に潜む意外な存在を知ることとなる……
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コピーされた人格は人間なのかそうではないのか、イーガン的テーマで書かれた山田宗樹の書下ろし長編です。どちらかというと、ワンアイデアをさまざまなバリエーションで見せたイーガンと違って、応用版となった本書では犯罪や親子関係、家族関係など、ふつうの小説で描かれるテーマの上で物語は進むのがミソ。何重にも重なる秘密の解明が面白い。

2016年11月20日 (日)

セルフ・クラフト・ワールド三部作

【2016年11月20日】
【第1部】まずセルフ・クラフト内のゲーム空間で物語は始まる。主人公はゲーム内で独自進化を遂げる生物の観察をしている。付き従うゲーム内キャラクタは、熊本弁を喋る従者だ。そこに謎の集団が現れ、生物の情報を盗み取ろうと暗躍する。
【第2部】セルフ・クラフトが生み出す生命は、リアル世界の日本が独占する重要な戦略資源となっている。その利権を巡って、日本と世界は暗闘を演じていた。駆け引きに明け暮れる首相は、老人となったかつての友たちの動向を知る。
【第3部】対立は誤解の果てに核戦争に発展、日本の大半は壊滅する。その中で、一人の情報技術者は生き残ったネット環境を探す。一方、セルフ・クラフト世界では、広大な地域が突然消滅するという謎の現象に襲われていた……
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ゲームデザイナーとして有名な著者のハヤカワ文庫4-6作目に相当します。ゲーム的な世界を舞台にした異世界ものは、世の中に溢れていますが、それと現実世界が深く関わるお話は少ない。特に本書のように、国家レベルの関わりとなると珍しいでしょう。未来のお話なので、首相をはじめ出てくる老人が今20歳代のゲーム世代で、その世界に入れ込んでしまうのもご愛敬。モデルはSF大会に参加している「老人」たちだそうです。いつまでたっても、元気というかお子様というか……。

2016年11月13日 (日)

Visions ヴィジョンズ

【2016年11月13日】
大森望編のオリジナル・アンソロジイだが、経緯は少し変わっていて、もともと2012年に講談社のマンガ雑誌イブニング向けに、マンガとのコラボとして企画されたもの。残念ながら、コラボされたのは2014年の飛浩隆「海の指」/木城ゆきと「霧界」のみで終わり、それと残った5作を単行本化したものが本書である(危うくお蔵入りになりそうになったのは、『危険なヴィジョン』に倣った表題に問題がありそう)……
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大森望編では今年短篇集や傑作選は出たものの、オリジナル・アンソロジイは『NOVA+』が出なかったのでこれが最初になります。とはいっても実際は4年前の企画で、危うくお蔵入りになるところでした。Visionsという名前が悪いというのは、ハーラン・エリスン編『最後の危険なヴィジョン』が原稿(1979年時点の目次では150編余)を集めたきり、ついに出なかった幻/伝説のアンソロジイだからです。その昔、被害者であるプリーストが同書について、批判本?をファン出版したこともあるくらい。これは都市伝説ではなく、ある意味史実ですけどね。

2016年11月 6日 (日)

カムパネルラ

【2016年11月6日】
主人公は16歳の高校生、亡くなった母の遺骨を、遺言どおり岩手県花巻の川に散骨しようとしている。ところが、宮沢賢治ゆかりの地に足を踏み入れたとたん、昭和8年の9月、賢治が病死する直前の時代に転位する。しかも、そこでフィクションであるはずの『銀河鉄道の夜』の世界に囚われてしまうのだ……
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カムパネルラといえば宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」ですが、原著(未完成のまま死後公刊された)の3次草稿と4次草稿にどんな差異があるのかは、あまりよく知りませんでした。評者が昔読んだのは、宮沢賢治研究による決定稿が出る前の4次版だと思います。それほど長くないので、早川書房の《世界SF全集》『日本のSF古典篇』などにも入っていました。3次版にはマッドサイエンティスト(のようなブルカニロ博士)が出てくるので、そこを生かして本書はSFになっています。

2016年10月30日 (日)

翼のジェニー

【2016年10月30日】
初期傑作選とあるが、過去サンリオSF文庫で出た『カインの市』から『杜松の時』までの4長編は、原著が1974~79年に出たものだった。本書の中短編はそれ以前のもの、まさに原点の作品が選ばれている。ジュヴナイルのような幻想譚「翼のジェニー」、ウィルヘルムの名を高めた「一マイルもある宇宙船」、中編「エイプリル・フール……」などは、『クルーイストン実験』(1976)でより深く考察された、医療サスペンスものの原型を思わせる……
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80年代にサンリオSF文庫で4長篇が出て、90年代にミステリが創元推理文庫や福武書店で翻訳されたウィルヘルムですが、以降ほぼ忘れられて20年が経ちました。本書が出たのは、2014年の『サンリオSF文庫総解説』での再評価にもよるのでしょう。まったく同じ作品でも、読む時代、読む年代によって受け止められ方は大きく変わります。半世紀を経たウィルヘルムの初期作品をあらためて読むと、時代を超越した本来のエッセンスがうかがえます。

2016年10月23日 (日)

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン

【2016年10月23日】
1948年サンノゼへの原爆投下を経て、アメリカの西半分は降伏、属領の日本合衆国(USJ)となる。東側はナチスドイツの占領下に入る。40年後の1988年、特高警察の女性課員が、検閲局に勤める陸軍大尉とともに、USJに広まる発禁ゲーム「USA」の開発者を追う。そのゲームは、アメリカが日本に勝利するという反社会的なものなのだ。しかしゲームを巡っては、アメリカ人反体制派ジョージ・ワシントン団や、大尉のかつての上司の陰が見え隠れする……
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今年後半最大の話題作です。日本合衆国=USJですね。日本占領下のアメリカ西海岸、暗躍する反体制派、巨大ロボットメカも登場します。ただし、ロボット格闘がメインのアクション小説ではなく、ハイレベルな改変歴史ものです。日本を題材にした海外小説では、固有名詞に難がある場合が多いのですが、本書は翻訳が絶妙なのでそういう不自然さがありません。六浦賀(むつらが)とか、久地樂(くじら)とかはカタカナでは違和感が残るでしょう。椎名誠の《超常小説》なら十分ありそうな名前になっています。

2016年10月16日 (日)

人生の真実

【2016年10月16日】
第2次大戦の空襲のさなか、イングランド北中部のコヴェントリーで私生児として生まれた少年は、叔母姉妹と祖母ら8人の女たちに育てられる。祖母や母親には超常的な力があり、その能力は少年にも受け継がれていた。母親が精神的に不安定になるため、少年は叔母たちの家を転々しながら、さまざまな体験をする。戦後の英国地方都市を舞台に、少年は成長を遂げていくのだ……
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英国の作家グレアム・ジョイスの世界幻想文学大賞受賞作です。12年前にも、同じ世界幻想文学大賞最終候補作が翻訳されていて、それ以来の紹介になります。超常的な能力を持つ女ばかりの家族というと、なんだか桜庭一樹『赤朽葉家の伝説』みたいですね。飛躍の度合いは、こちらの方がやや少ないかもしれません。大戦後、英国中部(イングランドでいうと北中部)の、そこそこ大きな地方都市コヴェントリーを舞台とした家族の物語です。

2016年10月 9日 (日)

J・G・バラード短編全集1 時の声

【2016年10月9日】
デビュー作「プリマ・ベラドンナ」(1956)は、砂漠のリゾート〈ヴァーミリオン・サンズ〉にある歌う草花を扱う店に、エキセントリックな歌手が訪れ騒動を巻き起こすお話で、その後のバラードの作風を決定づけたものだ。主な作品には、上下左右に広がる巨大都市で、飛ぶことを夢見る男「集中都市」(1957)、無限にスケールアップする深層時間を描く「待ち受ける場所」(1959)、家々や壁面に残留する音を清掃する男「音響清掃」(1960)、時計が廃止された都市の廃墟「時間都市」(1960)などがある。奇怪な進化を呼び起こす遺伝子と、カウントダウンする謎の数字が登場する「時の声」(1960)は、ここに自分の作品のすべてがあるとする代表作だ。巻末の「深淵」(1961)では、乾燥し干上がる地球で、主人公はただ一人脱出せず残留する……
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J・G・バラードの短編全集です。長い間絶版状態だったバラードの短篇集が、全集の形で復活します。全5巻のハードカバーとなるため、少々お高くは付きますが、価格なりの価値はあると思います。翻訳は既訳を見直した決定版、ハヤカワ版の『ヴァーミリオン・サンズ』や未訳の『近未来の神話』1冊分を含むものとなっています。なお表紙コラージュ画を描くエドゥアルド・パオロッツィは、バラードとも親交のあった著名なポップアート作家、彫刻家です。

2016年10月 2日 (日)

夢みる葦笛

【2016年10月2日】
SFやホラーのアンソロジイで発表された関係で、アンソロジイのテーマを意識した作品が中心となるが、「眼神」や幻想色が濃い「石繭」を除けば、宇宙空間を舞台とした「氷波」「アステロイド・ツリーの彼方へ」、異形の世界を描く「滑車の地」「プテロス」、AIと人との問題「完全なる脳髄」「楽園」などSFの主要テーマを組み合わせたものが大半を占める。「プテロス」などは、《司政官》に出てきそうな惑星の雰囲気があり面白い。「上海フランス租界……」だけは、歴史に埋もれた実在の人物像をモデルにした作品で新境地といえる……
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上田早夕里の最新作品集です。2009年のものから、未発表作を含む10作品ですが、ほぼSF中心といって良い内容でしょう。宇宙ものが目立ちますが、人間ではないシム(ディック的なシミュラクラ)がどうやって人間に近づくのか、思いを寄せていた友人のデータとどんな関係が結べるのか、ネコ型人工知能との友情とはなど、AIと人間との関係を描く作品が印象に残ります。

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