2012年1月22日 (日)

トワイライト・テールズ

【2012年1月22日】
『MM9』(2007)、『MM9 invasion』(2011)と続く、著者の《怪獣シリーズ》の設定で書かれた枝編(ある種のスピンアウト)である。 もともとアニメのためのシノプシスだったものから、小説として成り立つものをチョイスしたシリーズだという。本編とは関係の薄いエピソードも含まれる。本書の掲題「トワイライト・テールズ」は、TVシリーズ《トライライト・ゾーン》(日本では60年代に「ミステリー・ゾーン」として放映された)を意識したものだ…
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 怪獣オムニバス『MM9』の外伝です。怪獣が自然現象として当たり前に存在する世界を舞台にした、少年少女たちのほろ苦いエピソード4作。怪獣が存在する世界=トワイライト・ゾーンということから、むしろ怪獣を小道具にした物語となっているのが特徴でしょう。ただ、怪獣世代の人からすれば、“別次元/5次元世界”という感覚はなくて、ありえたかも知れない“昨日の世界”といった印象です。

2012年1月15日 (日)

リリエンタールの末裔

【2012年1月15日】
『華竜の宮』(2010)で、第32回日本SF大賞を受賞した著者のSF短編集である。「SFマガジン」、『NOVA5』などの専門誌に掲載されたものなので、SF読者向けの内容となっている。飛ぶことに活路を見出そうとする主人公のお話は、(空には何の制約もないように見えることから)自由への渇望の象徴として用いられる。それも含めてだが、本書では、どの作品にも技術者/職人のモノ作りに対する執念が登場する…
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 日本SF大賞受賞後、初の短編集です。表題作は『華竜の宮』にも出てくる、蓮の花に似た海上都市を舞台にしています(表紙のイラストもそれ)。本書の中には職人気質の人々がたくさん登場し、世間はそういった人たちを持ち上げるのですが、よほど芸術的な価値を生まない限り、お金には報われません。そういう悲哀も読み取れる作品集です。

2012年1月 8日 (日)

火星の挽歌

【2012年1月8日】
太陽嵐から27年後、ようやく復興を遂げつつある人類社会の前に、再び魁種族(ファーストボーン)の兵器が接近しようとしていた。人類の既存テクノロジーでは撃退不可能と思われる兵器を前に何ができるのか。一方、モザイク地球(ミール)から帰還した主人公は、その難局の打開を目指して火星に旅立つ。火星の北極地下深くで待つものとは…
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 クラーク&バクスターの3部作完結編です。クラークの晩年は若手作家との合作の嵐でしたが、一部を除くと、あまり優れた作品は生まれませんでした。技術屋的アイデア/人類の視点を重視するクラークと、ストーリー性/個人の視点から書くジェントリー・リーなどは、そもそも合わないわけですね。そんな中で、バクスターはクラークと作品意図が似通っているため、なかなか面白い作品に仕上がっています。

2012年1月 1日 (日)

さざなみの国/吉田キグルマレナイト☆

【2012年1月1日】
さざなみの国 山峡のどこか、ひっそりと隠れた村から一人の少年が父親を頼って王都を訪れる。少年は村と異なる都会の生活に戸惑いながらも成長し、貧しいながら家柄も良い言い名づけも得て、やがて役人の仕事に就く。しかし、そこで自分の隠された運命を知らされることになる…
吉田キグルマレナイト☆ バイトに情熱を燃やす大学生が主人公。戦隊ショーで大失敗をした主人公は、京都吉田山(京大のすぐ東側、森見登美彦らも舞台に使った。糺の森がある下鴨神社にもほど近い)に作られたテーマパークで、着ぐるみショーのバイトに就くことになる…
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 第23回ファンタジーノベル大賞の受賞作です。審査員の評判はあまり良くありませんが(前者は物語のバランスが悪く、後者はファンタジイの度合いが薄い)それぞれの見どころはあります。ほんのりとした従来の中国ファンタジイからの決別、もう一つはリアリティ溢れるコスプレ小説といったところでしょうか。ところで、審査員の椎名誠はシルヴァ―バーグの『夜の翼』を応募者に薦めています。手練れのシルヴァーバーグを真似るのは並大抵ではないでしょうが、ファンタジイに必要な想像力を考え直すきっかけになるかもしれません。

2011年12月25日 (日)

都市と都市

【2011年12月25日】
都市と都市とが重なって存在する。それも異次元/別時間で重なっていたり、地上と地下とで二重化されているのではない。住人の取り決めだけで“お互い見えない”ことにしている都市だ。その取決めは徹底され、相手を見るだけで罪となる。2つの都市は言語や習俗、政治、警察機構まで何もかも異なるが、地理的には同じ位置を占めている。そこで、両都市にまたがる殺人事件が起こる。これは通常の殺人なのか、都市の不文律を犯した重要犯罪なのか…
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Amazon『都市と都市』(早川書房)

 『ペルディード・ストリート・ステーション』以来、2年ぶりのミエヴィル長編です。今回は英米5つの賞を受賞した注目作ですが、上記のようになんともひねくれた設定。ショートショートならともかく、ふつうこんなアイデアでは、長編を書こう/書けるとは思いませんよね。真相を究明する警部補(はみ出し者)と巡査(女性)、相棒となるもう一つの都市の(異国の)刑事、真相を知ったがために殺される外国人と、まあ登場人物だけ見ると普通のミステリですけど。

2011年12月18日 (日)

リヴァイアサン クジラと蒸気機関

【2011年12月18日】
少年少女が主人公。平民生まれの15歳の少女は、大英帝国の飛行士になりたくて男性と偽り、士官候補生たちに潜り込む。少年はオーストリア=ハンガリー帝国の公子。両親がサラエヴォで暗殺されたことから、国内外の政敵に皇位継承者として狙われる。彼らは偶然スイスの山中で邂逅する。異世界の第一次世界大戦が舞台である。異形の人造生物を兵器とするダーウィニスト(英仏露)とメカ兵器のクランカー(独墺)が対決するのだ…
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Amazon『リヴァイアサン クジラと蒸気機関』(早川書房)

 新☆ハヤカワSFシリーズの記念すべき第1冊目。ハヤカワの新書には伝統があります。黄色や茶色に塗られた小口などは、洋書のペーパーバックを模したもの(このスタイルは、実はハヤカワに2年先行しながら2冊しか続かなかった、室町書房の《世界空想科学小説全集》を真似たものでした)。でも、日本版ペーパーバックは、ずっと豪華な造りです。本文も立派な書籍用紙で、欧米本家と違ってチープなパルプ紙ではありません。そのニューバージョン、新ポケットミステリ(略してポケミス。SFシリーズは、なぜか即物的に銀背と略されます)が文藝寄りだったのに比べて、挿し絵や表紙から少年少女☆エスエフシリーズという雰囲気ですね。本文や小口の色は昔と同じでも、ずいぶん違った印象です。

2011年12月11日 (日)

マインド・イーター[完全版]

【2011年12月11日】
著者の水見稜は1957年生まれの作家で、1982年から89年までの7年間だけ活動する。その後執筆を中断し、本書[完全版]に至る22年間沈黙していた。しかし、連作《マインド・イーター》は、早川JA文庫版の出版(1984年)以来、当時も書評を書き、本書の解説もする飛浩隆のような信奉者を得て、忘れられることは無かった。そういう意味で、本書もまた東京創元社が再発見する一連の伝説に相応しい、日本SFのマイルストーンなのである…
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Amazon『マインド・イーター[完全版]』(東京創元社)

 そういえば、本書の原型が出た直後の1985年、伊沢昭(評論時のペンネーム)=水見稜と評者は、第4回京都SFフェスティバルで大森望や水鏡子らと座談会を行っています。記録によると、テーマは「日本におけるSFの歴史と変貌」とありますが、どうせその通りの内容ではなかったはず。残念ながら何も覚えていません(26年前のことですからね)。ということで、本書の記憶も失われていると思いきや、主要場面はちゃんと思い出せました、さすがに。

2011年12月 4日 (日)

オリクスとクレイク

【2011年12月4日】
そう遠くない未来、人々は遺伝子操作に関わる企業群に支配された社会に住んでいる。そこでは、最優秀な学生は企業による私設学校を経て、最高の待遇が得られるようになる。主人公には人文系の才能しかなかったが、友人クレイクの推薦でそういったエリートたちの仲間に入る。そこで彼は、かつて幼児ポルノのフィルムで見た少女オリクスと出会う…
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Amazon『オリクスとクレイク』(早川書房)

 遺伝子工学が生み出した戦慄の未来、というような破滅小説ではありません。生命の営みすら予め決められるようになった、“生物的全体主義社会”の異様さを描く作品です。実際、本書はオーウェル『1984』との関連性で論じられることが多いようです。しかし、陰鬱なディストピア小説ではなく、主人公とオリクスとの屈折した関係を描き、一気に読める内容となっています。

2011年11月27日 (日)

これはペンです

【2011年11月27日】
表題作は、第145回芥川賞選考委員会で、全く評価しない石原慎太郎らと、絶賛する池澤夏樹らを2分する大論争を引き起こした問題作。論争と言っても、本作が「理解できるかできないか」という表層的な議論なので、それ自体に意味はない。著者の6冊目の単行本となる本書は、これまでの諸作の中でもっとも分かりやすい部類に入る。理由は、それが良く知られた先端的なSFのテーマに近いからである…
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Amazon『これはぺんです』(新潮社)

 さて、ここで首都知事の発言「小理屈をつけてこれを持ち上げる選者もいるにはいたが、私としては文章を使ったパズルゲイムに読者として付き合う余裕はどこにもない」には、以下の深ーい意味があったのではないでしょうか。「これはソーカルの罠である。文学に専門用語を振り撒いただけの小説まがいに芥川賞を与えれば、世界文学と持て囃す愚かな輩もいるだろうが、おそらくこ奴目は、いやあれは単なる出鱈目だ、所詮文學賞など莫迦の塊だと嘲笑うに違いない。そのような見え透いた罠には掛からぬぞ」とかね。でも意外に正しいかもしれません。

2011年11月20日 (日)

なまづま、穴らしきものに入る

【2011年11月20日】
 『なまづま』(長編賞):ヌメリヒトモドキと呼ばれる生物が蔓延する近未来。それは粘液で覆われた不死の生き物で、物理的行為で殺すことができない。しかも、人の遺伝子などの情報を吸収し、定期的に“女王”と融合しては、より人間に近い存在へと変態を遂げていく。主人公は、そのヌメリヒトモドキに亡くなった妻の髪の毛を与え、再生を図ろうとする…
「穴らしきものに入る」(短編賞):ある日、主人公が散水ホースの穴を見ていると、そこを通り抜けたいという強烈な欲望を感じるようになる。強く念じているうちに、やがて、体がするりとホースを抜け、反対側に滑り出ることができるようになる。その日から、あらゆる穴を通り抜けることが彼の人生のすべてになっていく…
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Amazon『なまづま』(角川書店) Amazon『穴らしきものに入る』(角川書店)

 今年のホラー大賞で、長編賞と短編賞の受賞作です。長編はSF的設定。女王という巨大な“人間もどき”の親が出てきます(赤ん坊の姿をしている)。短編はナンセンスSFです。ナンセンスものは、最近ちょっと珍しくなったタイプでしょう。合わせて5編の短編が入っていて、各編で書き出しの曜日が進んでいきます。不連続なのは、途中がボツになったからか。

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