2010年3月14日 (日)

もいちどあなたにあいたいな

【2010年3月14日】
叔母の娘が生後3カ月で亡くなってしまう。あれだけ望んでいた子供なのだから落胆も深いはず。しかし、どこか反応が違っている。小さいころ、わがままほうだいを聞いてくれた叔母、母親代わりに育ててくれた叔母、けれど、何かが変わってしまった。まるで別人のように…
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Amazon『もいちどあなたにあいたいな』(新潮社)

 1990年代後半以降、新井素子はほとんど長編を書かなくなりました。数年(7年、3年、6年という間隔)に1作を出す程度で、その間ずっと凝集させていくという書き方です。本書には親子3人、叔母とその旦那が登場します。というか、そういう親類縁者しか出てきません。けれど、それだけ近しい人たちが書かれていながら、感情的には大きな隔絶があります。結末はSFからすると普通なのでしょうが、家族関係との対比で読むと、より凄さが感じられます。

2010年3月 7日 (日)

2000年代ベストSF

「SFが読みたい!2010年版」に掲載されている「2000年代SFベスト」の私のアンケート結果です。

海外ベスト(長編)
  エンディミオンの覚醒/ダン・シモンズ
 タクラマカン/ブルース・スターリング
 ダイヤモンド・エイジ/ニール・スティーヴンスン
  航路/コニー・ウィリス
 あなたの人生の物語/テッド・チャン
 万物理論/グレッグ・イーガン
 デス博士の島その他の物語/ジー ン・ウルフ
 限りなき夏/クリストファー・プリースト
 アッチェレランド/チャールズ・ストロス
 ペルディード・ストリート・ス テーション/チャイナ・ミエヴィル

日本ベスト(長編)
 アラビアの夜の種族/古川日出男
 太陽の簒奪者/野尻抱介
 マルドゥク・スクランブル/冲方丁
  神は沈黙せず/山本弘
 楽園の知恵―あるいはヒステリーの歴史/牧野修
 ラギッド・ガール/飛浩隆
 夜は短し歩けよ乙女/森見登 美彦
 星新一 一〇〇一話をつくった人/最相葉月
 ハーモニー/伊藤計画
 あなたのための物語/長谷敏司

どちらも順不同とします。2000年代前半ベストに比べると、日本作家、海外作家ともに後半の作家/作品が変わりました。日本作家は層の厚みが増し たように思います。

跳躍者の時空

【2010年3月7日】
中村融によるフリッツ・ライバーのオリジナルアンソロジイ。スーパー子猫の“ガミッチ・シリーズ”を深町真理子訳で統一するなど、こだわりの編集である。ライバーはもう18年も前、1992年に81歳で亡くなっている。ヒューゴー賞受賞が6回とあるが、具体的には『ビッグ・タイム』(1958)、『放浪惑星』(1964)、「骨のダイスを転がそう」、「影の船」(1969)、「凶運の都ランクマー」(1970)、「あの飛行船をつかまえろ」(1975)である。ネビュラ賞3回は、「影の船」を除く中編3作が同時受賞したものだ…
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Amazon『跳躍者の時空』(河出書房新社)

 フリッツ・ライバーの日本オリジナル短編集です。中村融編集なので、例によってマニアック。スーパー子猫ガミッチ・シリーズ全収録、といっても断片的に書かれた作品なので、シリーズという雰囲気ではありません。ライバーは、ポーに連なるアメリカ幻想小説の雰囲気を伝える作家です。という意味ではブラッドベリなどに近い。創作時期によってSF、ヒロイック・ファンタジー(ファファード&グレイ・マウザー)と作風が変遷するため、なかなか全容が掴みにくい作家です。本書は2005年に出た『ランクマーの二剣士』(1968)以来5年ぶりの翻訳、ファファードもの以外の短編集としては実に24年ぶりとなります。

2010年2月28日 (日)

アホの壁

【2010年2月28日】
新潮新書にはベストセラー養老孟司『バカの壁』(2003)があり、新書ブームの端緒となった。その一方、小松左京の『SF魂』(2006)、眉村卓『妻に捧げた1778話』(2004)などもあり、各著者の自伝風の記述が注目を集めている。本書はむしろ後者に属する本といえるだろう…
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Amazon『アホの壁』(新潮社)

 筒井康隆書き下ろしの新書です。『バカの壁』と違って口述筆記ではないので、著者の文章がそのまま読めます。日ごろ場違いな発言をして/聞いて、アホなことをした/アホな奴や、と思った人が読むと面白いかも。まあしかし、アホの謎を解く、といった内容ではありません。著者の作家としての姿勢を改めて確認できる著作といえるのでは。

2010年2月21日 (日)

ゼロ年代SF傑作選

【2010年2月21日】
単純に書いてしまうと、“ゼロ年代SF”とは、2000年代になってSFプロパーに姿を見せた作家/作品を総称する名称である(SFマガジンの塩澤編集長により、“リアル・フィクション”というキャッチフレーズで呼ばれていたこともある)。出版状況の影響もあり、大半はデビューがライトノベルであったわけだが、SFを経て一般小説や純文学へと展開していった作家も含まれる…
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Amazon『ゼロ年代SF傑作選』(早川書房)

 40代の作家が爛熟の世代だとすれば、30代はまだ新人といえるわけで、本書はそういった新しい作家を集めています。それでは解説がベテランかというと、さらに若くて20代ですね(SFマガジンの評論賞受賞者)。個々の解題に対する毀誉褒貶も激しいが、正直ちょっと肩肘張り過ぎの書き方。もっと分かりやすく、楽に書いたらいいのにと思います。

 なお、翻訳家の浅倉久志さん(1930年生まれ)が14日に亡くなりました。最新の翻訳は昨年11月に出た、ヴォネガット『お日さまお月さまお星さま』(国書刊行会)でした。今40代から50代の世代が(公私ともに)大変お世話になった、第1世代の翻訳家に相当します。ご冥福をお祈りします。

2010年2月14日 (日)

その夢のつづき

【2010年2月14日】
著者は、1970年から89年まで30冊刊行された、北海道のSF同人誌「イスカーチェリ」の出身である。その“イスカ”は著者の兄である波津博明、沼野充義らが寄稿していた雑誌で、主に非英米圏作家紹介を中心とする特異なファンジンだった。また、徳間書店の「SFアドベンチャー」では、1983年の1月号でファンジン優秀作を選出しており、その第1回に「意識体」(初出時の題名は「養育」)が選ばれている。その後、84年にかけて4編が掲載されたが、本書にはそのうちの3作品が含まれている…
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Amazon『その夢のつづき』(文藝春秋企画出版部)

 自費出版ですが、著者に注目して読んでみました。北海道の「イスカーチェリ」はそのスジでは有名な同人誌で、論客や翻訳家を多く輩出しましたが、創作ではこの著者が知られていたからです。同人誌時代、「SFアドベンチャー」時代を含め、1984年以降は書いていないと思われていたので、突然の出版に驚いた人も多い。この歳になると、誰しも存在証明を残しておきたくなるためでしょうか。

2010年2月 7日 (日)

クォンタム・ファミリーズ

【2010年2月7日】
2007年の夏、主人公は娘からのメールを受け取る。それは過去に生まれたかもしれない娘が、2035年の未来から送ってきたものだとわかる。量子回路が情報端末に取り込まれた時代、ネットワークには量子論的にありえたかもしれない並行世界からの通信が混入し始める。それは情報の信憑性を著しく低下させ、やがて世界はネットワーク以前の世界へと退行する。主人公は並行世界からの通信を受けたのち、微妙に異なった/しかし同一の/妻・娘・愛人たちと、さまざまな過去/未来を生きることになる…
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Amazon『クォンタム・ファミリーズ』(新潮社)

 サブカルチャー評論でも著名な東浩紀の処女長編です。ほぼSF、村上春樹、ディックの名前が頻出する批評的な内容でもあります。SFのスタイルを意識して、量子(不確定性)回路普及後の混沌とした社会描写に相当な枚数を費やしています。ま、ここで手を抜くとSF者の追及が厳しいですからね。法月綸太郎の書評も面白いですが、よけい訳が分からなくなるのでお勧めしません。

2010年1月31日 (日)

ポジティヴシンキングの末裔

【2010年1月30日】
それぞれ、短編のようなショートショートのようなごく短い作品ばかり。紹介文では、全29編とも約30編とも書かれていて、短編集というには曖昧だ。というのも、各作品は自由連想のように関連し合い、前後で共鳴したり(「犯罪捜査」の結末で書かれたテレビに映る乳房が、次の作品の始まりになる)、遠く離れた作品と(不規則に)繋がっているように読めるからだ(「この冬…ひとりじゃない」と、「うららかな日和の昼下がり」とに登場する黒人ジャクソン)…
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Amazon『ポジティヴシンキングの末裔』(早川書房)

 群像新人賞作家(2006年)木下古栗(ふるくり)の、短編集ともオムニバス長編ともいえる不思議な作品集です。いわゆる筋というものはなく、連想のまま書かれたように読めます。しかし、その連想の順序は(ある程度)意図的なもので、全体の中で繋がりあっているように感じられます。本書で書かれた神経症的な怒りは、若い読者の共感/興味を引くのではないでしょうか。

2010年1月24日 (日)

ヘリックスの孤児

【2010年1月23日】
《ハイぺリオン》や《イリアム》など著名な長編の後日譚/前日譚だったり、シナリオ(映像化はされていないが)だったりと、独立した作品集としてはやや中途半端である。しかし、全作に著者自身の長い序文が付いていて、各作品の背景を説明してくれる(あくまで“背景”であって、作品解説ではない)。読み手を飽きさせないサービスが本書の特徴である…
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Amazon『へリックスの孤児』(早川書房)

 ダン・シモンズのSF作品集です。長~い《ハイぺリオン》や《イリアム》を読んでいなくても、序文が各作品についているのでそれなりに楽しめます。作家ダン・シモンズの率直な考え方も分かって、従来からのファンにもお勧めできますね。昆虫とヒマラヤのK2に登るという、ちょっと不思議な山岳小説も収められています。

2010年1月17日 (日)

NOVA1 書き下ろし日本SFコレクション

【2010年1月17日】
全作書き下ろしのアンソロジイは、井上雅彦監修の《異形コレクション》を始め、日本でも珍しいものではない。しかし、英米でポピュラーなSF専門のシリーズ・アンソロジイ(デーモン・ナイトのORBIT等、テーマを持たず定期的に刊行される)はなく、本書が最初の試みとなる…
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Amazon『NOVA1 書き下ろし日本SFコレクション』(河出書房新社)

 SFの書き下ろしアンソロジーで、いわば単行本版の雑誌です。雑誌のように月刊ではなく(ほぼ)年刊で出るもの。短編の発表媒体の少ない英米で流行った形式です。出版状況からすれば、日本でも短編の需要は減る傾向にあり、SF専門の文庫アンソロジーは貴重でしょう。中堅作家が集中的に収められているため、やや似通った印象を受けるのはやむを得ないか。

 あと、SF第1世代、「生涯一SFファンを標榜」されていた柴野拓実さんが、昨日亡くなられました。1926年生まれ、体調の悪化をお聞きしてはいましたが、つい最近、SFマガジンの1月号にもエッセイを寄せておられました。SFファン関係者で世話にならなかった人は少ないと思います。ご冥福をお祈りします。

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